ネタバレ特になし。
全集の十五。熊本・大分県境の山村で、異形の城を築き、十三年間に渡るダム建設反対闘争を展開した、「蜂之巣城主」室原知幸と、それに関わった人々の姿を描くノンフィクション。
いや、さすがの力編だわ。中心人物は物故者であり、史料と周辺談話がメインの構成だけど、それはどこまでも執拗に、丁寧に織り上げられて、抵抗のディテールとダイナミズムを克明に描き出している。
そして松下作品の重要な主題である、時代の裏面にある近代女性像についても、室原夫人・ヨシの姿がとても印象に深い。各章の劈頭でその肖像を刻んで後、室原の死の床における存在感、暴君たる室原を圧して、この作品の一番の主役と言っていいものだった。
評価はB。
- 作者:松下 竜一
- メディア: 単行本