藤沢周平『蝉しぐれ』文春文庫

ネタバレ注意。

東北の小藩、海坂藩の下級武士・牧文四郎の、少年期からの成長を描く時代長編。

同郷の大作家の代表作ですが、さすがの力編でした。どこか懐かしさの漂う端整な風景描写、自然に気持ちが寄り添う純粋な人物造形、エヴァーグリーンな青春小説としての友情・恋情、剣戟の昂揚感、勧善懲悪のカタルシス。小説のすべてがあると言っていいテンコ盛りの贅沢さながら、しつこさ、クドさを感じさせない、爽やかな物語です。中盤以降は頁をめくる手が止まらず、解説の人の徹夜話も頷けました。でも表紙、なんかのほほんとした風情だけど、あんな緊迫したシーンだったんかいw

恥ずかしながら初めての藤沢作品でしたが、何よりも祖父の本棚にズラリと揃っていた作家としての印象が強いです(他は池波正太郎とか)。経歴辿ってみると、山形師範学校で顔合わせてたりしたのかもしれません。祖父が亡くなって十五年以上も経ちますが、生前に読んで話ができていたらよかったなあと思います。最後でああなるのは蛇足じゃないですか? 『ニューシネマ・パラダイス』の完全版観た時と同じ気持ちになったんですけど、とかね。

評価はB。

蝉しぐれ (文春文庫)

蝉しぐれ (文春文庫)