今邑彩『「死霊」殺人事件』光文社文庫

ネタバレ注意。
男女三人の死体が見つかった現場、死者が蘇って殺人を犯したとしか思えない事件に挑む、貴島柊志シリーズの長編。
重層的なプロットが構築されたヴォリュームのある作品で、犯人・共犯者⇔被害者の構図に関するミスディレクションも効果的なものだが、意外性という意味では物足りなく、「ゾンビ」をめぐる真相や密室状況の解決など、本格として粗雑な部分も目についた。
ゾンビや冷凍死体など、ホラー・ミステリを狙ったおどろおどろしい要素といい、函館や横浜の観光地めぐりといい、女性刑事に託したフェミニズム要素*1といい、本格としての結構から浮きあがった夾雑物が多過ぎる。
プロットは悪くないのに、鼻白む要素の多い作品だった。
評価はC。

*1:しかし近藤史恵といい、女流ミステリ作家は絶対一回フェミニズムやらないかんのか?