荒井曜『慈しむ男』エイ出版社

ネタバレ注意。
こちらもお借りしたプルーフで、「第一回ゴールデン・エレファント賞」は『裏閻魔』との二作同時受賞なのだとか。
しかし随分と毛色の異なった作品、共通しているのはメディアミックスへの色気、あっちがアニメ担当、こっちが映画担当、ってぐらいかな。
大きい区分ではクライム・ノヴェル、要素としてはアンファン・テリブル、虐待を受けて嬰児遺棄された過去を持つ美青年が、テロリストとなって暴虐を尽くすお話。
多分、「絶対悪」みたいなことがやりたいんだと思うけど、テーマ性としてはありふれているし、そこに新味を加えることはできていない。東京タワー倒壊とか、最初一見してやってることは派手だけど尻すぼみになっていくし、ぶっちゃけ現実の方が遥かにカタストロフじみていて、読んでいて現実の後追いみたいに思われてしまう。
展開もご都合主義的で、特にラスト、慈男の計画が瓦解して破滅に至るところ、読んでてまったく展開の意味・必然性が理解できない。まさか眞理子とかってなんの魅力もないキャラクタ一人に、そのすべてを負わせているわけでもないだろうに…でもそう読めてしまうよね、説得力皆無だけど。
主人公の被虐待設定もどうなんだろう、ルイ・ヴィトンがどうとか半端なことやってるぐらいなら、いっそ何も書かない方が「絶対悪」として神秘的だと思うし、やるなら両親との因縁とかちゃんと書くべきだと思う。軽薄なエンタテインメントに徹するか、主題にきちんと向き合って書くか、そのどちらの姿勢も見えない。
唯一、人情派刑事のキャラクタは素朴でよかったかな。視点人物としては、こっちを全面に押していった方がよかったんじゃなかろうか。
評価はC−。

慈しむ男

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