福永武彦『草の花』新潮文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会…ではなく、なぜか本棚にあった処分対象銘柄。ミステリに造詣が深いって豆知識で買ってたように思います…確か別名義で実作があったはず。しかしこんな外延掘ってたらキリねえな。
で、サナトリウム小説と見せかけ、実は作中手記によって綴られる、直球の青春小説なのでした。一人の多感な青年が、ある兄妹の両方に恋しながら、愛とか、孤独とか、神とか、生とか死とか、そういうものについて考える、そういう小説です。
その過程で発せられる思考や行動、言動は、僕には酷くエゴイスティックなものに思え、だから僕は汐見くんがどんな目に遭っても(端的には二人ともにフラレるんだけど)、まあそりゃそうだよな、と思ってどうでもよかったりしつつ、でも「くだらねえ」と切って捨てるには、この小説の湛えるリリシズムはやはり美しいとも思うのでした。
風景・事物の描写を中心に、古色を帯びながらも普遍的な美文により、相当に独善的で閉塞的な世界が描かれながらも、ナルシスティックな自慰や自己陶酔に堕していない、危ういバランスを衝いた作品だと思います。
最後の千枝子さんの手紙とか、せつないしねえ。
評価はB。

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)