村上龍『タナトス』集英社文庫

ネタバレ一応注意。
キューバをメインの舞台にした…なんだろう、やっぱ「官能文学」とでも言うのかな。コレだけ持ってたけど実は三部作のラストで、"ECSTASY TRILOGY"ってのが連作タイトルらしいよ…イタくね?
キューバ在住の日本人カメラマンが、偶然知り合った日本人女優の滞在(?)の世話をすることになって、彼女の独白を聞くことによって物語は進行する。語られるのは、あまりに淫靡に爛れた相互依存とサドマゾの世界。
村上龍なので、独特の濃密な文体でねちっこくエロティシズムが描かれますが、まあ別に惹かれませんでした。俺、エロに関しては石田衣良程度のあっさりしたやつが好きです。
反面、キューバの紀行趣味に関しては、濃密な文体がうまく異国情緒を盛り上げていると思いました。「革命」という単語に象徴される、その国にまつわるイメージの熱気を伝えていると思います。
では、そんなところから一節。

(前略)キューバには信じられない種類の音楽があり、それらは分断されていない。一部の下らないメッセージソングを除けば、キューバの音楽は凶暴なビートに支えられている。そしてそれは、永遠に終わらないものとして演奏される。アレグロ、アンダンテ、アレグロ、またはアレグロアダージョ、アンダンテ・カンタービレというような旧世界の音楽の物語性から最も遠いビートだ。キューバのビートにはまってしまってからオレはその原型とされるナイジェリア・ヨルバのパーカッションも聞いた。明らかな違いはキューバの方が複雑でしかも厳密だということだ。今もその生まれた土地に住む者よりも、故郷や家や土地から切り離された者の方が失われたビートを強く求める。
(77P)

評価はC。

タナトス (集英社文庫)

タナトス (集英社文庫)