司城志朗『秋と黄昏の殺人』講談社文庫

ネタバレ注意。
放送作家の主人公が、元妻の失踪を契機に、殺人事件に巻き込まれていく、ライト・ハードボイルド。
基本的には、よくできた佳作と言っていいと思う。文章は過不足ないし、ストーリィの運びも自然。原稿や靴が奪われるという冒頭の「謎」も、事件の広がりの中にごく自然に回収されていて、小粋な処理だと思いました。草川と主人公との絡みが弱くて、だから最後、主人公を中心に置いた事件の構図が見えてくるあたり、若干カタルシスに欠けるきらいこそありましたが。
そしてこの小説の魅力に大いに貢献しているのが女性キャラ。磊落なラジオ局の報道部長・あずさ、機敏で天然なバイト女子・さっちゃん。それぞれ魅力的だし、物語で果たす役割(とその意外な変容)にも見所がたっぷり。その分、事件の発端になった元妻・塔子は完全に霞んでしまって浮かばれないけど、しょうがないね。

「両手に美女だ。おぬし、まんざらでもあるまいに。おう嬉しそうな顔をして。たまりまへんなあ、というやつか」
「いったいどこの方言だ」
「変幻自在」
(68p)

ってのは主人公とあずさの掛け合いだけど、香具山紫子を思い出してしまったりで面白かったな…作風は全然似てないけど、二人とも大学の先輩だった。
評価はB。

秋と黄昏の殺人 (講談社文庫)

秋と黄昏の殺人 (講談社文庫)