真保裕一『盗聴』講談社文庫

ネタバレ一応注意。
第一短編集とのこと。
今までのこの人の作品にとってきた態度*1から考えて、また罵倒エントリだと思ったでしょ？
…意外と悪くなかったんだな。実際まったく期待はしていなかったのだけど。
各編題材や趣向がバラバラで統一感はないけど、逆に言えば多彩で、それぞれにアイデアが凝らされ、オチに至るまでしっかりと構成されています。
表題作は当時目新しかったのであろう題材の新奇性こそ薄れているけど、犯人（グループ）の設定がダイナミックで好みだった。「再会」はセンチメンタル過剰のきらいこそあれ、それが真相のヴィジョンの毒々しさに貢献している。「漏水」のラスト、水道局の面々の登場は必殺仕事人みたいで、「小役人シリーズ」の作者たる面目躍如。「タンデム」の青臭い設定もいかがなものかと思ったがラストは結構感動的。「私に向かない職業」のオチもなかなか鮮やかだった。
広義のミステリ短編集としてはなかなかの品質だと思う。今まで読んだこの人の作品の中では一番楽しめました。短編向きの筆質なのかもしれませんね。表題作こそ詰め込みすぎて若干窮屈めだけど。
僕も別に罵倒エントリが書きたくて書いてるわけじゃないので、安心しました。あーよかった。
評価はＢ−。

盗聴 (講談社文庫)

*1:たとえばこれとかこれとかこれ。