山田宗樹『天使の代理人』幻冬舎文庫

ネタバレ注意。
今まで読んだのがどれこれも大概だったし、裏表紙にも《胎児の命、そして中絶の意味を問う衝撃作!》とか書いてあるし、冒頭の献辞もおそらく自分の子供に向けてたりで、読む前から厭なイタさがプンプンの作品でしたが案の定、何一つ評価すべき点の見当たらない、社会派気取りのくだらない本でした。なぜか本棚にあったけど存在を知らなかったし、解説も違う畑のライタが書いてたりで、多分黙殺されたのだと思う。さもありなん。
難点をあげつらえばキリがないけど、端的には説得力不足。登場人物たちの行動…「天使の代理人」という反中絶キャンペーンを思い立ったり、シングルマザーになってみたり、精子バンク使ってまで妊娠した子供を堕ろそうとしてみたり…が、描写の不足、あるいはその質の低さで感情移入を拒む。その唐突さ、非論理性を以て、「母」という存在、「母性」という神秘を描こうとしたのだ、なんて読み方は、それこそ聖母の如き慈愛に満ちた読み方だと言えるだろう。単なるヘタクソだと思われる。そもそも主題があまりにも社会通念的な規範に即した、しごく当たり前のものなのだから、それをそのまま書いたってしょうがねえだろ、という根本的な疑問がある。
作中人物の台詞を一つ引用します。

「一つだけアドバイスしましょう。あなたの原稿は、感情が表に出すぎている。訴えたいという気持ちはわかります。でもね、それが露骨になると、読者は引いてしまう。わかりますか? ほんとうに訴えたいことは、できるだけ感情をおさえて、淡々と書いたほうが、迫力も出るし、読者に伝わるんです」
(上巻67p)

…なんだ、分かってんじゃんw なんでやんねーんだよ、それを。
評価はC−。

天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)

天使の代理人〈上〉 (幻冬舎文庫)

天使の代理人〈下〉 (幻冬舎文庫)

天使の代理人〈下〉 (幻冬舎文庫)