桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』東京創元社

ネタバレ注意。
一つの代表作として認識されている(であろう)作品だけあって、なるほど力作でした。
山陰の旧家の「女の三代記」が、昭和史と重ねて描かれる。サンカの落し子ながら、輿入れした旧家を、やがて「千里眼奥様」として切り盛りしていく…赤朽葉万葉、「最後の神話の時代」。その娘はレディースとして中国地方統一を成し遂げ、やがては天才漫画家として少女漫画界の頂点に立つ(意味不明w)…赤朽葉毛毬、「巨と嘘の時代」。そしてその娘は語り得るものを何も持たないまま、祖母の殺人の告白、一族に纏わる謎を捜し求める…赤朽葉瞳子、「殺人者」。
万葉の章は古色を帯びて、毛毬の章はパワフルに、瞳子の章はどこかしらの空虚を抱えて。それぞれに微妙にニュアンスを変えながら、でも根底にはどこかしらファニィな世界観、ユーモアとテンポのよさ、そして「家族」や「友情」に関するいやらしくない感動の演出、と、桜庭小説の背骨がしっかりと筋を通している。女たちはどいつもこいつもかっこいいし、男たちはどいつもこいつも愛らしいし、その交流は笑えてやがて感動する。
「殺人」の謎の解明においても、そこではじめて三代にわたる「語り伝え」という物語構成が必然性を持ってくる、というプロット構築には、とても野心的なものを感じました。「被害者は誰?」が眼目なのではなく、より大きな枠組みにミステリとしてのメイン・プロットがあったわけです。
二段組みの重量級ですが、一向にダレない確かなリーダビリティと、志の高さを感じさせる力作です。
評価はB+。

赤朽葉家の伝説

赤朽葉家の伝説