ネタバレ注意。
辻村深月という作家は、「微妙」だと思う。ナイーブなキャラクタたちは、リアルな生命力やみずみずしさと、文芸的ないやらしさ、わざとらしさのあわいにあって危うげだし*1、心情描写が大きな比重を占める地の文に関しても、その印象は同様である。
「クリエイター(とその卵)」の若者たちの共同生活を群像劇として描いたこの小説において、その「微妙」さは顕在化している。楽しげな共同生活にも、それぞれのクリエイターとしての煩悶にも、どこかその一歩手前で感情移入を拒むようなところがあって、のりきれない。説明過多な叙述作法もどこか性急で、これまでの作品のような丹念さで物語に説得力を持たせることができていない。
しかし…である。最終章において明かされる、ある「秘密」の情景。それがそれら「微妙」だったすべてを、鮮やかに、説得力を持って再生させてしまう。溢れる涙は一級の感情喚起力の証だ。どこかふわふわと落ち着きのなかった「共同生活」が、実はこんなにも強い思いに支えられていて、それゆえにこの「終わり」が必然だということ。また同じように、「トキワ荘」というわかりやすいモチーフを打ち立てて、しかし揺らいで見えた小説じたいに関しても、作者はこれまでと何も変わらず、周到な伏線と、登場人物、そしてなにより物語への敬意を、丹念に積み重ねていたことが、驚きと感動で胸を打つ。
彼女の小説のうちで、最もスウィートなものであることに間違いはないが、その「微妙」ならぬ「絶妙」が、読み終えてみれば力強く実感できる力作である。
評価はA−。
- 作者: 辻村深月
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