辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』講談社文庫

ネタバレ注意。

母親を刺して行方不明になった幼馴染を、主人公の女性ライタが捜索するサスペンス小説。

毒親の問題、母性の問題、地方都市で生きる女性と、そこから飛び出した都市生活者としてのアイデンティティ…多彩な主題で構成され、またそれぞれよく描き出されていて、こまやかな描写力という美点は発揮されている。

二章立てで切り分けたのは、周囲の証言によって人物像を浮き彫りにする、というスタイルと共に、チエミの偶像性を壊しているし、翠ちゃんというキャラクタの存在感の大きさもあって、作品のバランスを崩している気がするが、それでもここに視点を置いて表現したいものがあったのだろう。他にも大地にせよ啓太にせよ男性キャラの造形の貧しさや、「自爆テロ」といった性急に頭でっかちな語りなど、あやういところが(タイトルの含意を含め)散見されて、のめり込むに至らないのは残念だった。

評価はC。