ネタバレ注意。
阿部和重のもはやライフワークとなった感のある「神町サーガ」。山形県は東根市、神町を舞台に繰り広げられる窃視と異常性欲、悪罵と暴力、そして因業。特に後半の単語からは中上健次あたりが連想されるところだが、むしろこの作家の「サーガ」は文学というよりもノワールに近い手触りを持っている。
…つまり、読んでいて面白い。文庫本は四分冊という大長編だが、一気に読ませる。だが文学的な鈍重さから解放されているのと同時に、物語に確かな筋と強さがある。後半の連続死展開はコント的でもあるが、カタルシスと強い手応えがあった。
俺がこの作品をまずエンタテインメントとして読んだのは、舞台が身近だってこともあると思う。執拗に濁点が打たれる山形弁の台詞、あるいは「恥曝」といった難解な単語をいきなり会話文に紛れ込ませる手法は、文学、そして「サーガ」としての異化効果をもたらすだろう。しかし俺にとってみれば、山形弁なんて親しいだけのものだし、東根で起きる事件なんて、せいぜい「さくらんぼ東根駅」前の少年の銅像が持ってたサクランボが盗まれたことぐらいだってことも知ってる。「サーガ」の舞台としての東根は、俺にとっては異界ではない。パインサイダー*1といった小ネタ的なリアルに、ニヤリとさせられる程度の距離なのである。
というわけで、先入観なしで読んでみたかった気がしたのでした。
作品の評価はB。
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