恩田陸『蜜蜂と遠雷』幻冬舎文庫

ネタバレ一応注意。

コンクールに挑むピアニストたちのドラマを描く、青春音楽群像長編。

直木賞本屋大賞受賞の言わずと知れた人気作。確かに序盤、各コンテスタントたちの出自…ドラマとトラウマ含め…が披瀝されるあたりはめちゃくちゃ面白くて、ああコレどんだけ面白くなるんだろうと思ったけど、その期待はそのままの形では叶えられなかった。

G戦場ヘヴンズドア』や『ちはやふる』、小説だったら『DIVE!!』に共通する、何かを一心に極めようとする人間に訪れる、何か神々しいようなエモーショナルな瞬間、その裏付けとしての「人格」(by都センセー)のドラマはよく描けていて、随所で涙腺を刺激してくれはする。しかし俺みたく、この作家の「心地よく秘密めいた」感覚を偏愛する者にとって、序盤にあったそれが次第に薄れ、クライマックスに向かうにつれどんどんと大らかで開放的に、明るくなっていく物語は、目新しさと、やはりどこかしらの物足りなさを感じさせるものだった。

しかしそれはまた、凡百の非才が想像・期待するような悲劇や苦悩、ないし狂気といったものを超越し、ただただ明るい場所、高みの方へと駆け上がって行くことを許された、「天才」たちの物語としては正しいものであるんだろうね。

評価はB。

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)