ネタバレ一応注意。
コンクールに挑むピアニストたちのドラマを描く、青春音楽群像長編。
直木賞、本屋大賞受賞の言わずと知れた人気作。確かに序盤、各コンテスタントたちの出自…ドラマとトラウマ含め…が披瀝されるあたりはめちゃくちゃ面白くて、ああコレどんだけ面白くなるんだろうと思ったけど、その期待はそのままの形では叶えられなかった。
『G戦場ヘヴンズドア』や『ちはやふる』、小説だったら『DIVE!!』に共通する、何かを一心に極めようとする人間に訪れる、何か神々しいようなエモーショナルな瞬間、その裏付けとしての「人格」(by都センセー)のドラマはよく描けていて、随所で涙腺を刺激してくれはする。しかし俺みたく、この作家の「心地よく秘密めいた」感覚を偏愛する者にとって、序盤にあったそれが次第に薄れ、クライマックスに向かうにつれどんどんと大らかで開放的に、明るくなっていく物語は、目新しさと、やはりどこかしらの物足りなさを感じさせるものだった。
しかしそれはまた、凡百の非才が想像・期待するような悲劇や苦悩、ないし狂気といったものを超越し、ただただ明るい場所、高みの方へと駆け上がって行くことを許された、「天才」たちの物語としては正しいものであるんだろうね。
評価はB。
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2019/04/10
- メディア: 文庫
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