江戸川乱歩『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』光文社文庫

ネタバレ一応注意。
全30巻の全集に手をつけます。
ほぼ年代順の編集でしょうか、デビュー作「二銭銅貨」から、初期の短編が収められ、自作解説含めて、乱歩が世に出て認められていく過程が窺える第1巻です。つか自作解説に脚注、解題とちょっと偏執的でさえある充実の編集。代表的な短編は既に出尽くしているようにも思われるのですが、ベストはやはり「人間椅子」でしょうか。次点で「屋根裏の散歩者」かな。
こないだ『傑作選』も読んだけど、それ以外にも何かにつけ読んでいる作品も多く、新たな感想というのは特にありません。ただ自作解説で繰り返される自虐ネタは、もうなんかかわいらしいレベルに達している。拙作だの駄作だの、「(出来に)ペチャンコになってしまった」だの…。でも他愛のないネタを、独特の質感と様式美で読ませてしまうのが乱歩の大家たる所以だと思うけどね。
でも「論理探偵小説としては不合格」とかの慨嘆には一抹のせつなさも滲む。ロジカルなものを書きたくて、でも「変格」あるいは「怪奇」の側面ばかりが認められ、また本人もロジックは決して得手としてはいなかった、その様はこの初期短編群、ロジカルなものが認められる暗号モノの作例よりも、先に挙げたような、蠱毒の滲むオリジナルな変質性の宿った作品の面白さが、何より雄弁なところです。
評価はB。

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)