盛田隆二『夜の果てまで』角川文庫

ネタバレ注意。
北海道と東京を舞台にした駆け落ち小説。
北大四年・ブロック紙内定の主人公が、近所のラーメン屋の陰のある人妻と恋をして、すったもんだでカケオチ、というお話。彼には未来があり、彼女には過去がある。それらを捨てて二人の行き着く先は…という、東海テレビのお昼が似合いそうなメロドラマです。
ストーリィもキャラクタも類型的。主人公も裕里子も工藤夫妻*1も、全く魅力を感じなかった。と言うか、端的にはバカばっかりだと思って。
端整な文章には似合わないディテールの氾濫は、この小説に一種異様な質感をもたらしてもいるけれど、キャラの厚みには貢献してないよね。痴話トラブルで新聞社の内定取り消されて、「(前略)ぼくはいま生まれて初めて、自分自身の人生を選んだような、そんな気がしています」(322p)とか言っちゃうイタめのインテリ大学生も、逃げて来てなお、「(前略)あなたの人生、取りかえしがつかなくなる」(420p)だの「私といると、あなた、だめになっちゃう」(466p)だのと絶望的にありきたりな台詞しか吐けない人妻も、正直どうでもいい人たちだった。これだけディテールの溢れた小説世界に、空虚なキャラクタが徘徊する、実験的な滑稽味を志向したわけでもあるまいに。
だからヌルいハッピーエンドもどっちらけだったけど、唯一正太君のキャラクタには好感を持ったかな。でもわざわざ視点設定するほど、それによってさらに小説を肥大化させるほどのものではないとも思う。
まだ佐伯一麦のがよかったような気がするけど、でもこういうのって主人公の男は絶対インテリじゃないとあかんの? なんかナルシスティックだよねー書いてんのも男だしさ。
評価はC。

夜の果てまで (角川文庫)

夜の果てまで (角川文庫)

*1:逃避行先の東京で出逢うスリの夫婦…って、ビルドゥングス・ロマン的にいかにもありがちなキャラ。