新野剛志『もう君を探さない』講談社文庫

ネタバレ注意。
もうはっきりと分かりましたけど、この人は完全にヘタクソです。
安いトラウマ背負った教師が、行方不明の女子生徒を捜す話。別に要らないし向いてないのに無理にハードボイルド風にしようとするから、文章にもキャラクタにも無理が出るんだよ。プロットもご都合主義に過ぎるし*1、事件の構図そのものがそもそもせせこましい。マウンテンバイクとかキャンプ道具とか、出してくるガジェットがまったく無意味に浮いているのが逆に笑える。そんなんで趣味性出るか!
ムカつく台詞や文章を晒してたらキリがないけど、一応メモ。

 私の到来を告げるように、小刻みな足音が響いた。コンクリート住宅特有の間を置かぬ谺が後を引く。少年時代を過ごした埼玉の団地を急に思い出した。縦横整然と並んだ集合住宅群は谺がよく響いた。親を困らせようと、卑猥な言葉を大声で叫んだこともあったはずだ。
 のどかな団地にその卑猥な言葉が響きわたる様子を想像し、思わずにやついた。あのときの母にも微笑むだけの余裕があったろうか。そうであればいいがと心の中で願った。
(8p)

…読むスピードとテンションが著しく削がれるこの無意味な描写w 前後見渡しても、その必然性がまったく分かりません。

 ブレードから私へと移した本間の目は虚ろだった。強い光を発しているのに怒りも悲しみも感じられなかった。人を抱きしめもするが殺しもする。殺気などなくても必ずやる、そう思える目だった。
(22p)

…センテンスごとにまったくバラバラなこと言ってない? 凄み全然出てねーw
他にももっと頁を折った箇所はあったけど、際限がないのでやめましょう。冒頭22pまでを引いてもこのクオリティ、あとは推して知るべしというところですね。
文章にもキャラクタにも、何も通っていない、というか通わせるべきものが何もない、単にハードボイルドっぽいのが書きたいだけだから。重厚さの演出が軽薄さをしか産んでいない、そういう無惨な例。
評価はC−。

もう君を探さない (講談社文庫)

もう君を探さない (講談社文庫)

*1:終盤、伊佐治を連れて警察に行かない意味が分からない。