ネタバレ特になし。
お久しぶりの読書カテゴリでございます。こいつのせいです。
3週間かかりました。文庫4分冊、2700枚。読む方にもテンションを要求する作風・筆質なので、空いた時間で細切れに読んでいくのは結構大変でした。
ああそう、別にエントリをアップする日を終戦記念日に合わせた訳ではありません。偶然です。そんなに思い入れもないし、そもそもそれだけのアツい感想を書けません。それはなんだか悔しくもあるのですが。
「大作」ではあります。重厚な文体の手応え、ディテールの緊密な堆積、潜水艦による戦闘シーンの、あるいは南方の密林での「地獄」の、それぞれ力の入った描写の迫力。小説として、小説家としての「力」を、そうした部分に認めるにやぶさかではないし、それは『亡国のイージス』なんかの既読作品からも分かってはいたことなんだけど、それは相容れない部分とてまた同じなのでした。
なにより登場人物の造形が薄い。各人が背負っているものとか、これから先物語の中で果たしていく役割なんかが、すぐ透けて見えてしまう。一番薄かったのは残念ながら主人公格・征人のピュアな造形*1で、だからパウラとのボーイ・ミーツ・ガールが非常にどうでもよかった。
結局それは、登場人物を、作者の「理念」が大きく規定しすぎているからではないかと思ったり。作家として書きたいこと、伝えたいメッセージがあるというのはいいことだけど、それだけで登場人物に息をさせることはできない。これまでの作品でも大いに鼻白んできた「憂国」のイデオロギーは、この作品においては戦記モノのリアリティの中に比較的馴染んではいるけれど、それでもやっぱりどうでもよくて、それこそ≪ここには死に値する大義はない≫と思えてしまいましたが。
あと、戦後の(つまり冷戦期の)アメリカにおける、ローレライの戦略的重要性の蘊蓄のくだりはどれだけ考えても意味が分からなかったです。
評価はC。
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*1:≪「あんたたち大人が始めたくだらない戦争で、これ以上人が死ぬのはまっぴらだ……!」≫(383p)じゃねーっつの。