ネタバレ一応注意。
一応出版業界に属する企業でありながら、飲み会の席で滅多に本、特に文芸作品に関する話題で盛り上がることなんてない我らが名古屋支店ですが。先週珍しく小説の話になり。東野圭吾があーだ伊坂幸太郎がこーだと非常にふわふわした論議の中、急に空気読まない宮本輝布教に目覚めた先輩が一人。その場にいた一人一人に「お前はコレ」とか言って一冊ずつあてがわれた、わたくしの課題本がこちら。「お前には前々から言ってるのにいつまでたっても読まない」とか罵られたので、早速古本にて購読。どうにも文芸の賞の選考委員としてのこの作家にネガティブイメージがあって、遠ざけていたのでしたが。
で、ストーリーは分かりやすいのです。軽井沢の別荘地が舞台で、主人公の少年は一軒の別荘の下働き夫婦の息子。家族構成は他に姉が一人。別荘の主人には妻と二人の娘。その二つの家族の、淫靡に爛れた愛憎劇です。母娘同時の不義密通に近親相姦、そこから派生するいくつかの死と、必然としての破局。初めて読んだ*1宮本輝でしたが、異色作らしいです…なぜこんなものをあてがわれたのでしょうw
解説ではドストエフスキーが引かれたりしているのですが、僕はより端的に、「昼ドラ」を感じましたね。別荘の主人なんて藤竜也の顔しか浮かんでこないもの。その意味では、これは「王道」です。
その母と父の、そして姉の、布施家の別荘における十七年間について考えるうちに、ぼくはなぜかこの宇宙の中で、善なるもの、幸福へと誘う磁力と、悪なるもの、不幸へと誘う磁力とが、調和を保って律動し、かつ烈しく拮抗している現象を想像するようになった。調和を保ちながら、なお拮抗し合う二つの磁力の根源である途方もなく巨大なリズムを、ぼくはぼくたち一家の足跡によって、人間ひとりひとりの中に垣間見たのだが、不思議なことに、そのとき初めて、真の罪の意識と、それをあがなおうとする懺悔心が首をもたげたのだった。
(230p)
なんて、単純な昼メロ愛憎劇の合間に急に「ブンガク」されても、少なくとも俺はおいてけぼりを食らうだけだった。こういうの書くんなら、いっそソープオペラに開き直ればいいのに。
ちょっと俺には、繊細と陰鬱が過ぎて感じられた「文学的」文章や世界観も居心地が悪かったのだけど、何より厭だったのは主人公の造形。こいつ支離滅裂だし、とにかくすげームカつくガキだよ。
別荘地舞台の小説なら、北村薫に遥かにいいものがあると思う。ベッキーさんシリーズだったよな、あれ…。
評価はC。
- 作者: 宮本輝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1988/03
- メディア: 文庫
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