恩田陸『夏の名残りの薔薇』文春文庫

ネタバレ注意。
タイトル最高、と思ったらクラシックの曲名なのだね。
山奥のクラシック・ホテルを舞台に、主人の三姉妹と招待客たちが、秘密と記憶を駆け引きする心理ミステリ。
常々僕が形容しており、またこの本でも杉江松恋が解説でそう形容しているように、まさにこの「心地よく秘密めいた」感覚はなにより恩田の真骨頂である。六章立て、各章を「変奏」として一人ずつの死者、しかし次章に移るとそれがなかったことになっている、という特徴的な構成。山奥に建つクラシック・ホテルという舞台にも夢幻的に映えていたが、決着もまたうすぼんやりとした印象が。最終章が特権化されてしまっているのは納得がいかないなあ。あくまで並列の「変奏」のはずなのに。
全体的なビターな味わいも、僕の嗜好とはややズレた。今回の姉弟はマヂ近親相姦だし。もっとノーブルなのが好きだな、恩田は。
…まあ愉しんだのは前提として、いろいろ不満点を挙げてみました。要求はバリ高ということですね。
評価はB−。

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)