桐野夏生『天使に見捨てられた夜』講談社文庫

ネタバレ注意。
ホモとかニューハーフとか総登場、メインはAV女優の失踪事件、*1ハナから絢爛豪華なハードボイルド・オブ・セクシュアリティ
ジェンダーセクシュアリティの問題意識をプロットの根幹におく「3F」ハードボイルド、という基本路線は前作から引き続いているが、その行き着く先は前作より一歩進んでいる。つまり最初は全然大したことのないキャラクタに見えた捜査対象、「一色リナ」が、その捜索の過程で存在感を持ち始め、伴ってジェンダーセクシュアリティを突き詰めた先に「母」がいる、と。
このプロットの流れは見事なものだと思ったけど、その「流れ」に意識が行きすぎて、「深さ」の点では今一歩掘り下げられなかったかな、という印象が残った。淡々とリズムのよい叙述もそれに乗っかったもののようで。
端的に言えばもっとドロドロして、凄みの欲しい題材だったかな、と。
評価はC+。

天使に見捨てられた夜 (講談社文庫)

天使に見捨てられた夜 (講談社文庫)

*1:厳密には「失踪」ではないのだけど。