真保裕一『ボーダーライン』集英社文庫

ネタバレ注意。
非常に世評の高い作品だったように記憶しているし、僕も実際「読ませる」作品だとは思うのですが、「評価」としてはあまり高いものにできないように思いました。テーマ性とその表現手法が乖離しているように感じます。
舞台はアメリカ西海岸、日系の雇われ探偵を主人公に物語は進む。皮肉とウィットに満ちた会話と筆致で楽しく読めますが、たまにその度が過ぎてパロディ的に読めてしまう箇所が目に付きました。普通の小説ならまったく問題ないし、むしろ僕は好きな方向性ですが、*1「純粋悪」というこの小説の孕む重いテーマ性を考えた場合、夾雑として捉えてしまう…まあ最初からテーマに対する先入観があったことも確かだし、ならどうやって描くんだと言われれば沈黙する以外にないのですが。
解説はまたも関口苑生氏。「社会」云々という単語がこの小説の「悪」を語るに持ち出されていますが、そんなものはまったく関係ない存在に描かれていると思うのは僕の誤読なんでしょうか。でも作中安田の台詞なんか読んでると、そうした批評性にも色気があるように思えてしまう…ちゃんと対象化して書いたのだろうか。
なんだか、そういうところもアヤしかったな。
評価はC+。

ボーダーライン (集英社文庫)

ボーダーライン (集英社文庫)

*1:たとえば『マンハッタン・オプ』とか『ハードボイルド・エッグ』とか。