古野まほろ『天帝の愛でたまう孤島』講談社ノベルス

ネタバレ注意。
正直に言って、三部作のラストでやや尻窄んだ感はあった。
ラニア巣食う川とマングローブによって構成される天然の迷宮密室…「孤島」は、「御矢」で描かれたものと比べて世界観としての緊密を欠くように思った。まあ単に好みの問題と言ってしまえばそれまでだが。
ネタバレしてしまえば『人狼城』など、先行本格作品(とガンダム)の引用・参照・コラージュがそこかしこに窺える。偏執的な表層とは相反して、骨格部分に見られるアティテュードはサブカル論で言う「データベース型」、ミステリ史の蓄積への対処は極めてオタク的な軽やかさであり、犯人特定のロジックなど根幹はシンプルなネタを持ってきていて、やはり面白いセンスを持っていると思う。
ただ…物足りないのは「破壊力」の部分だなあ。ミステリ史のオタク的な参照、それによってもたらされるアンチ的自己破壊性、小説技巧としての「歪み」…音楽的に言えばディストーションの感覚…、特徴を抜き出せばそれは極めて「麻耶的」だが、読んでまったく共通する感覚はないし、新本格最強のカタルシスに匹敵するものは表現し得ていない。
…まあ、それだけ色々な語りの可能性と期待を抱かせてくれる作家だということですね。それだけでとても貴重なことです。
評価はB−。

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス)

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス)