ネタバレ注意。
マスターズ叢書の文庫化。
久しぶりの歌舞伎シリーズを読んでの率直な感想は、「ホッとした」でした。主に祥伝社系の作品で読まされて辟易していたクソみたいなフェミニズムの魔の手は、今泉文吾の周辺にまでは及んでいないようで。
いかにもこの作家らしい愛憎劇。それが作中取り上げられる歌舞伎作品にシンクロしてくるプロット処理は想像の範囲内にあって、カタルシスとしては物足りない。『桜姫』あたりはその演出がべらぼうに巧かったものだが。だが『スタバトマーテル』あたりにもあった「一言の切れ味」はないにせよ、過去場面では完全な中心として、そして現在場面では背景にたゆたって、存在感を発揮する美咲という中心キャラクタの存在感は出色。あとがきでわざわざ思い入れを語るだけのことはある。コピーライティングやプロットだけではなく、キャラクタの造型と描写によって小説を支える手腕。
最近読んだ近藤史恵作品の中ではダントツの満足感であったが、こううまく「女」を描けるのだし、そもそも歌舞伎という題材がトランス・ジェンダなどの問題意識も含んでいて、『桜姫』などはその見事な達成だったのだから、他シリーズの完成度の低さが改めて不思議になった。
作品の評価はB。
- 作者: 近藤史恵
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/03
- メディア: 文庫
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