田中啓文『落下する緑 永見緋太郎の事件簿』創元推理文庫

ネタバレ注意。
テナーサックス奏者を名探偵役に、ジャズミュージシャン界隈で起こる事件を描くシリーズ短編集。
七編それぞれ、異なる楽器をメインに据えて、テーマカラーを配し、またお話に沿ったディスクレヴューを添える、という凝りに凝った構成。総じて質は高く、笑酔亭梅寿シリーズもそうだったけど、こういう縛りのあるシリーズ短編書かせると非常に巧い。それぞれミステリとしての趣向も変えて、またそれぞれに読みどころの多い充実の内容、これはダジャレ禁止の縛りがいいように作用したか、と思いつつ、でも書き下ろし「虚言するピンク」ではやっぱり解禁してて。でもこのお話は人情噺としては随一のよさ。
他には「遊泳する青」の切れ味なんかも好ましいけど、個人的なベストは「砕けちる褐色」か。「ファイロ・ヴァンスのポーカー」をジャズのジャムセッションで変奏するという稚気もさりながら、メインの謎であるウッドベース破壊のトリックには、思いもかけない壮大なスケールとカタルシスがあって。
すごくいいシリーズだったので、売らずに取っておくことにしました。ディスクレヴューにもいつかお世話になるかもしれないし。
評価はB+。

落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)

落下する緑―永見緋太郎の事件簿 (創元推理文庫)