ネタバレ注意。
家庭内読書会「森博嗣完全読破」企画、第三回課題本。
「あの調味料の瓶に睡眠薬が入っていたのかもしれません」犀川は淡々と言った。「実は、あの日、パーティのあとで、西之園君がキッチンでサンドイッチ……、のようなもの……を作ったんです。これは、僕の記憶が曖昧なのではありません。記憶は極めて鮮明ですが、彼女の作ったものが曖昧だった」
(440p)
笑えたシーンはさておいて、とにかく傑作、大傑作です。
中坊以来の再読だけど、当時は俺も「トリックかんたーん」言うてたわ。かわいかったわー。このトリックに色気あるなら、普通「回転」にまつわる伏線*1もっと張るよね。見た瞬間に自明にしていることはもはや自明。
この作品の神髄たる、メタファの重層性と美しさは他に類を見ない。トガっていながら、ハマっている。シリーズ離れて一編の「本格ミステリ」としての評価をするなら、『F』すら超えるのではないか、初読時はそう思わなかったけれども。
「地下の老人」から犀川が受けるインプレッションも伏線の一つ…『F』における「面会」との相違という意味で…とするなら、シリーズ離れての評価という話にはならないけれど。一方でかなり重要な伏線がそうした「リフレイン」の中に仕込まれているというのも、やはりこの小説「らしい」わけで。
唯一、三ツ星館のイルミネーションのギミックをどう落とし込むかという部分だけ、俺は作中言われる「片山基生のデザイン」というだけではうまく飲み込めなかったけど。しかしそれも、何か見落とした、トガりつつもきっちりハマった解釈があるのかもしれないと、そんな奥深さ、底知れなさを感じさせる作品です。
この作品の持つ「深さ」と「引力」を語るのに、単純に本格とかメタ、アンチといった単語は馴染まなくって。やはりノベルス版北村薫の名解説、「魔術的なリフレイン」という単語は何よりこの作品を言い表していると思って、感心至極でありました。
手放しの絶賛、最後は諏訪野のカワイソカワユスぶりで。
諏訪野は、何度も犀川に頭を下げ、「お願いします」のあらゆるバリエーションを披露した。
(183p)
評価はA+(再読)。
笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBYE (講談社文庫)
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/07/15
- メディア: 文庫
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