石川真介『自動車の女 三河路殺人慕情』光文社文庫

ネタバレ注意。
…なんとまあ、こうまで箸にも棒にも引っかからない小説が、よく出版を許されるものだなあと逆に感心してしまいますが。
サブタイトルにある「慕情」というのは、嫁に逃げられた中年男性が、学生時代の元カノとのヨリを戻そうと、「三河路」を駆け摺り回る様を表しているようですが、その有様に関してはそれが罵詈雑言の類であれ、何か言葉を向けるのもバカバカしい出来なので無視します。
なので冷静に、ミステリとしての結構についてだけ。
まず、アリバイ崩しが行われるメインの事件についてですが、これアリバイ崩しとしてまったく成立してないよね。わざわざ死体発見者を被害者の下に差し向けておきながら、その行動をまったく恣意的に統制できていない犯人の不可思議な行動。発見者がたまたま10分早く現場に着いただけで、完全に瓦解してしまう殺人計画。でもそんなアリバイ工作なんかももはやどうでもいいのかもしれないよね、もう一件の殺人だって、普通に聞き込みに行った先のおじいちゃんが「お待ちしておりました。私が犯人です」だもんな。唖然としたわ。
動機、二件が二件とも、「交通事故遺族の、加害者に対する復讐」という短絡。この人は相変わらず、作中人物の口を借りておそらく「新本格」に対して、「リアリティがない」だの「登場人物が殺人劇のためだけに存在する」みたいな紋切りを吐くけれど、あなたの登場人物は交通安全啓蒙のために使い捨てられてますよw さすが天下のトヨタ社員兼小説家ともなると、こんな蛮勇にも似た社会的使命感を発揮されるのですね。
読んでる間、冷笑が離れませんでした。
…しかしこんなん書いてたら、日曜の朝から気分悪いわw
評価はD。

三河路殺人慕情 ―自動車の女 (光文社文庫)

三河路殺人慕情 ―自動車の女 (光文社文庫)