ネタバレ注意。
『イニシエーション・ラブ』は「LOVERS」だったけど、今回は「WHEEL OF FORTUNE」。乾くるみの文春文庫はタロットモチーフでいくらしい。どうせなら『塔の断章』とかも出し直したらいいのに。『匣の中』は「MAGICIAN」か「STAR」、『Jの神話』は「EMPRESS」とかかな。どうせ全部は埋まらんだろうな。
で、今回は「記憶を持ったまま過去に戻る」=「リピート」という経験を共有した人々の間で起こる*1連続殺人、という全開のSFミステリ。
「SFミステリ」というと反射的に西澤を思い出すけど、その設定だけではなくて人間描写も西澤っぽい。ブラックで、シニカルで、ちょいエロ。西澤の場合主人公にムカつくことはあまりないけど、この小説においては物凄いムカつく。それをラストのカタルシスに繋げてしまったのはやや力技の感はあるけど、効果的ではあるね。
「リピート」に隠された意図、というミステリとしての仕掛けはあるけど、評価の主眼は人間描写だろう。優れたその手腕を、異常状況の中で発揮した作例として。リアルではないが、こうした不合理にも迫力はある。
しかし結局、俺は「西澤的なもの」がどこまでも好きなんだな、と思った次第。まあ乾の場合はよりブラックでシニカルだから、それは持ち味として愛してるけどね。でも『収穫祭』読みたいなあ…。
評価はB。
- 作者: 乾くるみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/11/01
- メディア: 文庫
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*1:これが「開放的クローズド・サークル」で、裏表紙で『そして誰もいなくなった』が引かれている所以であるらしい。