土屋隆夫『土屋隆夫推理小説集成 5 不安な産声/華やかな喪服』創元推理文庫

ネタバレ注意。
二長編、ホント申し訳ないけど、どちらも悪い点ばかり目につく、つまらない作品だった。
「不安な産声」は、人口受精を専門にする産婦人科医にふりかかる悲喜劇を描く倒叙長編。人工授精をネタにサスペンス書こうとしたらまず真っ先に思いつくようなプロット、昼ドラレベルで安い。ホワイダニットにもそれをどんでん返すオチにもまったく意外性がないし、女性観、家族観、倫理観に旧態依然としたものを感じさせ、あー「社会派」の辛さ、短命さってのはこういうものかと思った。その意味で巻末評論の作家論との対照は興味深いのだけど。あとさ、凍結精子なんか使ったら、検死でバレて足ついて、めっちゃキレイな藪蛇にならないもん?
「華やかな喪服」は、犯人のある目的のために娘ともども誘拐された人妻が、なんやかんやでよろめいていく恋愛・(北関東)ロード・サスペンス。こっちは主に、主人公の人妻の造形、そこから展開されるロマンスが、率直に言って痛々しかった。江森君の末期における角川映画的ヒロイズム、その後のあまりにもベタな悲劇の挿話、いずれも大家老いたりと言える空疎さ。最後まで誘拐された理由が理解できなかったけど、「不安な産声」も含め、古臭い女性観が気持ち悪いってのが最大の難点だったな。
評価はC−。