樋口有介『誰もわたしを愛さない』講談社文庫

ネタバレ注意。
柚木草平シリーズの長編。
樋口節、例によって高品質のライト・ハードボイルドだが、『木野塚探偵事務所だ』を挟んだからか、はたまた長編だったからか、『探偵は今夜も憂鬱』より若干クドく感じてしまった。シリーズの印象も、ごく僅かにではあるが下方修正か。
メフィスト」連載作らしく、レッドへリングの撒き方やアリバイトリックに本格的な技巧を試みてもいるけど、この作家に求めているのはそういうものではないし、連載ゆえに冗長の気味が出たのだとしたら、むしろマイナス。
ただ出てくる女性キャラクタは皆巧みに書き分けられていて、やはりその意味での技巧においては期待を裏切らない。冒頭の加奈子との会話からいきなりニヤニヤさせてくれるし、何より一つ、至言に感じ入った。

 男と女の力関係は、理論ではなく、あくまでも生命力だ。三十八年も生きてきて、俺は一度も気の弱い女に会っていない。それがただの偶然なのか、この世に気の弱い女が一人もいない結果なのか、酔いが冷めたら、明日にでも考えてみよう。
(166p)

評価はC+。