宇月原晴明『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』新潮文庫

ネタバレ一応注意。
第11回日本ファンタジーノベル大賞受賞のデヴュー作。やっぱりこの賞はハズレないな。面白いよ。
アンドロギュヌスとしての信長」という伝奇設定を取り入れながら、その描写にはあまり筆が費やされない。秀吉や光秀、武田に上杉とあらゆる戦国武将とその配下の視点をめまぐるしく行き来させ、さらに20世紀において「信長」を探求するアントナン・アルトーと日本人青年のパートでは、古代ローマナチスが「信長」に世界史的な広がりを持って結びつく。一見して節操なく思えるほどの壮大な展開だが、そのどれにもおざなりな感はなく、そしてその背後には「信長」の妖美な影が常に揺らめいている。
端整な筆致でありながら妖気漂うその演出、自由奔放な奇想。まったく稀有な才能である。
津島に行きたくなりました。
作品の評価はB+。

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)

信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス (新潮文庫)