古野まほろ『天帝のみぎわなる鳳翔』講談社ノベルス

ネタバレ注意。
探偵小説神が巫女・瀬見仁美沙、再臨。

『ご意見ご質問等なければ――
 おう仏蘭西蛙どもっ、イヤサ、ずずずっとそれへ出いっ。マヌカン系の瀬見仁美沙、瀬見仁左右衛門が嫡女と生まれ、本格ひと鋼(すじ)二十年、非倫非道の毒殺に、邂逅するも主の因果、いかなる天魔が魅入りしか、青酸加里の大饗宴、巫女の赦すと思うてかッ。瀬見仁家が大身鑓(おおみやり)の田楽刺(でんがくざし)、喰らって地獄で』
 ばばん!!
『詫びませい―――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!』
 決まった!! 麻里亜屋ッ!!
 見よ! ここに降臨した本格探偵小説が処女(レリジウーズ)からは、聖(きよ)らな栄光(グロリア)が燦然(さんぜん)と放たれているのだ。その夢幻的(ファンタズマゴリーク)な、荘厳(マジェストゥーズ)なものが裡(うち)にヒトよ聴け、聖鐘の淫々(いんいん)たる最強々々音(フォルテシシシモ)を! ああ、瀬見仁美沙はその探偵術を賛美され、究竟(きゅうきょう)の恍惚境(こうこつきょう)において、聖女(サンクタ)として天帝が御許に召されるのだ! 全世界六十七億の脳髄を諾(ダア)となすにたる絶対的箟棒(ブラボオ)なのだ! 汝探偵小説が巫女よ、称賛あるべし! ――ああ終幕(カーテンフォール)。
(597-598p、括弧内ルビ)

なんだコレwww 最高すぎるwww
で、巽昌章による賛辞も輝かしい「天帝」シリーズ第四作。称揚される文章力は、確かに。これほどの怒涛のようなエクストリームの中でも、単語の選択間違えたとこ見たことない。
肝心のストーリーの方は、『御矢』をスケールアップさせて今回は制式空母。核炸裂による三千人殺しに、国際軍事サスペンス展開と大風呂敷広げるだけ広げつつ、本格としての主眼、「毒殺」と「密室」に関しては、テーブルマナーや紅茶の蘊蓄を絡ませて端正なロジックが展開される。推理合戦の興奮作用は言わずもがな。
ちなみに以下敗れし者の末路。

 そして最後の膝が落ちた。
 美沙さん――!!
 僕は彼女をひしと抱き縫(と)めて。
(一緒に死のう(モリアーモ・インシエーメ)!)
(ああ、一緒に、死ぬのね(ア・スィ・モリアーモ)!)
(最期の言葉を、ともにいおう(レストレーモ・アッチェーント))
(本格に、生きて悔い無し(サラー・ケ・ノイ・ラミアーモ))
『古野少佐? 瀬見仁嬢?』
『天城、艦長――?
 たくさんの説が、死んでゆくのを――あたし、見たわ――
 金之助――あたしにノーマルスーツを着る気にさせた――子供の癖して!!』
『本格やったで美沙さん、論理(ロジック)弱かったけどな、本格やったで!』
(604-605p、括弧内ルビ)

歌い上げてんじゃねえよwww
そしてせっかくの真相を有耶無耶にしてしまう、例によっての女狐登場。今回はアナグラムによる人物同定のオマケつき。爆笑した。
徹底して過剰でありつつ、しかし足元の周到な論理構築と定石のサービスを忘れない、信頼に足るエンタテインメントとしての本格ミステリ
そう、まったくもって、≪実を言えば まほろは正しい≫。
評価はB+。

天帝のみぎわなる鳳翔 (講談社ノベルス)

天帝のみぎわなる鳳翔 (講談社ノベルス)