笠井潔『青銅の悲劇 瀕死の王』講談社文庫

ネタバレ注意。

1988年、昭和の終わり。東京都西端、頼津市の旧家に起こる連続殺人にナディア・モガールが挑む、矢吹駆シリーズ日本編の一。

戦後であり、学生運動であり、バブルであり、それらの過程での社会問題であり、およそ「昭和」というべきものを「総括」するように進行する物語に、まずは面白さがある。

矢吹駆シリーズとしては(スピンオフだとはいえ)やはり哲学対決がないのは物足りないし、クイーン本歌取り趣向に既視感があったり、毒殺をめぐる謎解きもパラノイアックに過ぎるなど、個人的な嗜好と若干食い違う点もあったけど、質量ともに充実の大作であることは間違いない。

嗜好ついでに言えば、セクトの話とカルトの話はもっと全面に押し立ててほしかったな…。

評価はB-。