ネタバレ注意。
女中としてある「おうち」につとめる主人公・タキの視点から、太平洋戦争前後の日本とその日常が描かれる、直木賞受賞の長編。
いや、すごくいい小説でした。戦時中の人々の生活が、その中に息づいていた様々な交情と共に、瑞々しく、せつなく描かれている。女中という存在にも、戦争に傾斜していく民衆にも、現在の我々の価値判断とはまったく別のところで、それぞれに尊い生のかたち、喜びと哀しみがあったということに気付かされるし、それはまた、現代社会における断絶の問題にクリティカルであろうと思う。時子もタキも、あるいは睦子も、自分たちの感情、思いを成就させるどころか、その存在をさえ自覚できない、輪郭をさえ辿れない、そうした交情の風景は、確かに幸福のそれではあっても、やはりこの上なくせつないものです。
主題とドラマが胸に迫る、本格派の小説だけど、読み心地はあくまでやわらかく軽やかでユーモラス、何より自然体でいて(ラスト健史パートの作中作のあたりだけ書き過ぎの気はしたが)、いい作家だなあと素直に思われた。タキが自分をキャリアウーマンに譬えるくだり、めっちゃいいなあと思っていたら、巻末の対談で船曳由美さんが同じ個所挙げてくれてて、膝をうつことしきりでした。そうそう、最高なんだよあそこ。
評価はB+。
- 作者:中島 京子
- 発売日: 2012/12/04
- メディア: 文庫