松下竜一『松下竜一その仕事 23 怒りていう、逃亡には非ず』河出書房新社

ネタバレ特になし。

全集の23、副題は「日本赤軍コマンド泉水博の流転」…日本赤軍ダッカ・ハイジャック事件での「超法規的措置」により出獄、日本赤軍コマンドとなった刑事犯・泉水博の肖像を描くノンフィクション。

証言が限られているため、『狼煙を見よ』に比べると、人物伝記としての興趣はどうしても薄くなる。しかし泉水の流転を通して描かれる、日本の警察・司法、そして政治機構の脆弱さ、機能不全、筋の通らなさとそれを顧みない厚顔は絶望を喚起して余りあり、「超法規的措置」がなによりその主題を象徴している。某ベルマーレサポ*1じゃないけど、縦割りに居直りすぎなんだよこいつら。

一度犯罪者…より一般的に敷衍すれば敗者・落伍者・社会的弱者…としてカテゴライズされてしまえば、人道・人倫・人権が無視されても、あるいは権力の側がそれを蹂躙しても、平然と頬かむりしてしまえる没義道と、それを許容する無知・不見識は、統治機構のみならず、この国に根深い病巣であって、そうそう変わるものではない。コロナがそれを暴いてくれるなら、むしろ福音だという思いすらあったけれど、最近の情勢を見れば甘すぎる考えだった。

ヤバいよねこの国。

評価はB-。

*1:別に親しみの表現ではない。クソだと思っている。