ネタバレ注意。
気高き英国執事・スティーブンスが、フォードで旅をしながら来し方を振り返る、バトラ・ロード・ノベル。
最初はスティーブンスの慇懃無礼ぶりに反感を持たざるを得ないが、やがてそれはユーモアと哀しみをまとい始め、イギリスという国、その歴史・文化に対するシニカルな批評性の現れだったことが感じ取れるようになる。そして物語はそうした閉じた世界を超えて、人生というものへの普遍的な射程を持ち、二つの大戦における歴史的興味も喚起してくれる。ノーベル賞作家のさすがの仕事と言えるだろう。
土屋政雄の訳もさすが端正で素晴らしかった。「~でしたろう」が若干気になったがw
一節、社会資本において及びもつかない、極東の島国に響き渡らせたい警句があったので引く。
「さらに、ミスター・ルーイス、私にはあなたが"プロ"という言葉で何を意味しておられるのか、だいたいの見当はついております。それは、虚偽や権謀術数で自分の言い分を押し通す人のことではありませんか? 世界に善や正義が行き渡るのを見たいという高尚な望みより、自分の貪欲や利権から物事の優先順位を決める人のことではありませんか? もし、それがあなたの言われる"プロ"なら、私はここではっきり、プロはいらない、とお断り申し上げましょう」
(149p)
言ってやってくださいよホント!
あと俺が最近身の毛もよだつほど嫌いな言葉、「是々非々」ね。そんなん日和見主義の言い換えでしかない。
維新の会とやら、お前らのことだよ! …さすがに関係なかったね。
評価はB。
- 作者:カズオ イシグロ
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫