THA BLUE HERB 『THA BLUE HERB』

5thフル。

セルフタイトル、2枚組、フィーチャリングもなしの全30曲。

自分自身のこと、仲間とその連帯のこと、去っていった人と別れた人のこと、札幌のことと旅先のこと、日常のこと、そこに連なっている歴史のこと、そして繋がっている社会のこと。

縦横無尽のトピックに、それを唄わなくては…謳わなくてはならない必然が宿る。20年、孤高を護りながら頂点の位置にあり続けたラッパーが、ここに至ってなおそのクリエイティヴィティの到達点を更新し続ける、圧巻の仕事。

全ては書けないので、特筆すべきものをいくつか。

・「REQUIEM」

あの戦争から日本人は何も学ばなかった、左翼クリシェ的な現状認識が、陳腐化の皮層を破って、クリアで冷徹な現実として突き付けられる。

そしてその中で苦しんできた人々への共感と尊敬が滲むフロウに打たれずにいられない。泣ける。

「いろはにほへと」がいかにとんでもない詩であるのか、改めて認識される日本語のテキスト。

・「HIGHER ON THE STONE」

人などシヴァの前じゃその他大勢 手に負えない感情を大事に運んで
汗に排気ガスと砂埃纏って 酸いも甘いも過去形のサドンデス
再び人に生まれ変われたならまた会おうぜ 今度こそ友達になろうぜ

ブルーハーブの世界観の一つの核である、「旅」のインプットの、最も穏やかでやわらかな顕現。揺蕩いのトラックの薬理的効果もなかなかのもの。

取るものも取りあえず旅に出たくなる。リリックの入り、《車寅次郎兄貴を夢見てる》ですよ先輩(←私信だけど絶対読んでない)。

・「TWILIGHT」

若くして逝ってしまった友人に対する哀悼の歌。個人的感涙ハイライトの1。

あの日 BOSSが病室に入って行った時 あいつ何て言ったか覚えてますか?
ああ もうこれで誰にも会わなくても良いって言ったんすよ

こんなもん、泣かずに聴けるわけがないでしょう。死の床にあって、見舞ってくれた先輩にこんなことが言える人生って、それだけの人に出会えたことって、それはやっぱり幸福としか名付けれないと思うよ。

・「HERTBREAK TRAIN (PAPA'S BUMP)」「UP THAT HILL (MAMA'S RUN)」

別れた夫婦のそれぞれの苦闘を、それぞれの視点から描く二曲。日常のこうした闘いに歌う価値が見出されていることが心強く、またそのリアリティとシビアな現状認識に迫真性を感じる。

パパのどん詰まり感に大いに共感しながら、やはり強いのはママなんだなあと感嘆してしまいます。

・「COLD CHILLIN'」

雪国賛歌。

雪に閉ざされた世界の、その中に息づく生活の暖かさ、蓄積されていく情熱のしたたかさ、生命の輝きの美しさ。

リリックもトラックもそれを十全に表現して感動的だ。感動つーか、雪国の生まれであることが誇らしい。

真っ白な世界に色を付ける事などは 冬の民にとっては思いのままなのさ どうだ

・「スーパーヒーロー」

真の英雄的な行いがどういうものなのか、3.11の風景に託して描かれる英雄譚。個人的感涙ハイライトの2。

《でもあの人がきっとそうだったんだな》。それを見た子どもたちの中に、受け継がれていくだろう正しさと優しさ。幸福を祈らずにいられない。

しかし偽善を取り繕う気すらない連中はどうしたら滅ぼせるんでしょうね。俺もこんなとこでこんなこと書いてるだけなら、《何もしないお前》でしかないんだけどな。

THA BLUE HERB

THA BLUE HERB

  • アーティスト:THA BLUE HERB
  • 発売日: 2019/07/03
  • メディア: CD