須賀敦子『須賀敦子全集 第1巻』河出文庫

ネタバレ特になし。

青春の13年間を過ごしたイタリアでの生活、友人たちとの出会いと別れを描くエッセィ。「ミラノ霧の風景」「コルシア書店の仲間たち」「旅のあいまに」の合本。

卒業旅行で数日ツアー回っただけ、カルチョの国のラテン気質としてしかイメージのないイタリアだったから、ここに描かれる若者たちの群像…知的で、含羞があって、穏やかで優しく、屈折しつつも純粋で、奥底に静かな情熱を秘めた…は、とても新鮮だった。

その中に日本人の女性が独り飛び込んで見る景色、そのみずみずしい好奇心や冒険心が眩しいし、せつなさや悲しみも凛とした姿勢を際立たせる。異国での生活の中で、著者がいかに丁寧に、人々とのふれあいと、そして自分の人生を紡いできたか、この格調の高い文章で綴られた各編が何よりの証明であるように、ごく自然に感じられた。

若い日に思い描いたコルシア・デイ・セルヴィ書店を徐々に失うことによって、私たちはすこしずつ、孤独が、かつて私たちを恐れさせたような荒野でないことを知ったように思う。
(「コルシア書店の仲間たち」あとがき、374p)

戦争の傷痕深く、差別病理も根深い、だがだからこそ社会変革の機運に燃えた、美しく切ないイタリアの、得難い青春の風景。

評価はB+。

須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)

須賀敦子全集 第1巻 (河出文庫)