H.モリス/金原瑞人・笹山裕子(訳)『アウシュヴィッツのタトゥー係』双葉社

ネタバレ注意。

アウシュヴィッツ・ベルナベウ収容所で「タトゥー係」になる主人公と、そこで出会う女性を中心に描かれるドラマ。

極限の悲惨・惨苦が描かれていながら、犠牲者の目から描かれるホロコーストの風景が、奇妙な透明感…透徹さにつつまれているのはどうしてなんだろうなと思う。『夜と霧』とか、数冊読んだだけなんだけど。

実話の聞き取りベースなだけあって、ドラマとして説明不足だったり、スペクタクルに欠けて感じられる部分はあるけど、その分、極限状態で生まれる交情や、それを希求する人間の性がリアルに立ち上がってくる作品。物語の必然性、ドラマの要請、という意味では、ラリとギタのラブストーリィはもっと描写構築されるべきなんだろうけど、そういうことじゃないんだな。

そしてそれを補完してくれる、夫妻の子息による結びの言葉が、めちゃくちゃ感動的で泣いた。歴史上の悲劇における無記名の被害者ではなく、心の通った人間としての姿を、この上なく鮮烈に照射している。

ここまで含めての作品…いや、人生、だわ。

記録のみ。

アウシュヴィッツのタトゥー係

アウシュヴィッツのタトゥー係