京極夏彦『ヒトでなし 金剛界の章』新潮文庫

ネタバレ注意。

娘を殺され、家族や仕事のすべてを失った男が、思わぬ運命に巻き込まれていく、クライム・ノベル。

投げ遣りに達観しながらも、その言葉と行動に筋が通って凄味のある「ヒトでなし」、尾田の造形に出色の説得力。歯に衣着せぬ語りに、コワレた人々が惹きつけられていく様子、カルト宗教や自己啓発セミナ的な、マインドコントロールや人格再構成の現場を覗き込むようでうすら寒くなります。

犯罪とは、宗教とは、善悪とは…大部の多くを「ヒトでなし」と周囲の人々との問答が占め、まどろっこしく感じる部分もあるけど、その後急速にドライヴする物語でその実践を見せつけられる。ド正面から宗教にぶつかりにいっただけのことはある、本格派の筆力を感じさせる作品。

『死ねばいいのに』もそうだったけど、京極の現代ものは骨太やなー。「胎蔵界の章」も楽しみだわ。

評価はB。

ヒトでなし: 金剛界の章 (新潮文庫)

ヒトでなし: 金剛界の章 (新潮文庫)