柳広司『幻影城市』講談社文庫

ネタバレ注意。
日本を追われるように満州に渡り、満州映画協会の新米脚本家となる主人公が巻き込まれる事件を描く。
興味深い題材だし、満州となれば当然出て来る連中…甘粕正彦や石井四郎といった名前も、それを取り巻いて虚実入り混じる設定も嗜好に合ったものだったけど、残念ながらいかんせんプロットが…それがさらに関心ズバリの甘粕事件を中心に置いたものであれ…安すぎて、長編を支え得るものではないと感じた。作品の成立過程はよく知らないけど、全体に見切り発車の感があって、この題材、この作者とあってどうしても高くなる期待・要求を満たしてくれるものではなかった。コメディタッチの筆致も有効性は疑問で、もっとダークな幻想小説的香気で演出してほしかった…桂花のキャラとかもったいなさすぎる。
このフィクションとしての脆弱さが、「幻影城市」…「満映」の虚栄に対する自己言及的クリティシズムだなんてのは、穿った見方だろうな。
評価はC。

幻影城市 (講談社文庫)

幻影城市 (講談社文庫)