瀬戸内寂聴『美は乱調にあり』岩波現代文庫

ネタバレ一応注意。
伊藤野枝大杉栄を中心とした評伝小説。
二人のみならず、辻潤や「青踏」の女たちなど、明治末〜大正期のアナキスト、知識人、フェミニストたちの群像劇として描かれ、読み応えはある。しかし俺の興味のあり方として、ここまで色恋沙汰全開の書き方だと、そういうことじゃねえんだよな、という思いはあった。彼女ら彼らの色恋が、引用される当時のマスメディアで大真面目に議論されてることからも、それが社会の関心事になる世相*1を描いているのだろうし、瀬戸内寂聴という初読の作家に、勝手に抱いていたイメージにも見合う内容ではあったが…。大杉栄もその思想は大して云々されず、ドンファンとしての肖像ばかりが際立っていた。
この巻は神近市子による「日陰茶屋事件」までの前編だけど、後編『諧調は偽りなり』も残ってて、しかも上下巻…だいぶお腹いっぱいになりそうだなw 栗原康の伊藤野枝伝も、タイトルかっこいい*2から読みたいんだけどなー。
あっけらかんとした連中より、辻潤ディレッタントぶりに共感が深かった。大学の友達の四畳半の部屋に辻潤が転がってたのを思い出す…元気かな。
評価はB−。

*1:現代だって変わりゃしねえんだけどな。

*2:『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』岩波書店刊。岩波に好きな編集がいるんかな…。