芦原すなお『東京シック・ブルース』集英社文庫

ネタバレ注意。
1960年代末、学生運動華やかなりし時代に、四国から東京の大学に進学するため上京した主人公の、友情と恋愛を描く青春長編。
ノーチェックだったので、すわあの時代か、と身構えてしまったし、期待も高まったけれど、時代背景はあくまで背景であって、描かれるのは、見事に個性的な面々が繰り広げる、しかし見事に普遍的な、人間という存在、青春という懊悩を真っ当に見つめた、瑞々しいドラマでありました。
老若男女、出てくる「人間」…あんまりキャラクタと呼びたくない…が全員愛おしくて、彼らの中に自然に感じられる善性がそのまま、この小説の主題を体現しているように感じられます。人間の魅力は脇役の脇まで息づいていて、足立くんが戸口でお見舞いするトコとか、クリスマスの権藤…人間結節点とか、作者らしいユーモアにも満ちて、自然と笑みがこぼれるシーン、枚挙に暇がありません。
そして同時に、これまで読んだ芦原作品で一番泣けました。特に父親から、故郷の友人から、年上の恋敵から、それぞれ小説の主題を顕して素晴らしい内容の手紙文は出色の一言。
端的に、すごくいい小説で、蔵書残留が決定しました。つか芦原作品は全部残せばよかった…。人間存在の自然な本性、という小説の主題に敬意を表して、最も自然な感想を言うと、俺もこんな女性たちを描けるようになりたいなあと思いました。女性の魅力は、何より得難いこの作家の美質だと思います。
そしてやっぱり、タイトルはいまいちやねw
評価はB+。

東京シック・ブルース (集英社文庫)

東京シック・ブルース (集英社文庫)