泡坂妻夫『蔭桔梗』新潮文庫

ネタバレ注意。
直木賞受賞作。職人の世界を舞台に、その中でのさまざまな「情」の機微を描く短編集。
いや、大人の小説ですね。職人たちの矜持が通底して作品世界を引き締め、その中に下町の情緒と、男女を中心とするこまやかな心情描写、それに導かれてしとやかな物語が息づいている。直木賞が優れた「大衆小説」を讃えるものであるとすれば、その理想形と言っていい作品だと思われます。亜愛一郎シリーズなどのすっとぼけた作風とは、ちょっと同じ作家の筆になるものとは思えませんな…。
ミステリ的にツイストの効いたお話もあって、特に「竜田川」はなかなかセクシィな構図があって、やられた!と思った。これが「くれまどう」あたりになるとちょっと艶っぽすぎて、あーこんなの渡辺淳一が喜んじゃうなー、って感じだったけど。
評価はB。

蔭桔梗 (新潮文庫)

蔭桔梗 (新潮文庫)