amazarashi 『世界収束二一一六』

4th(オフィシャルでは3rd)フル。

みんな 地球を出て行った

僕はそれに 手を振った
さよなら
(「百年経ったら」)

SF文芸バラード「百年経ったら」に描かれる、「収束」を迎えてしまった百年後の世界をタイトルに冠して、これまでで最もシニカルでゴシックな世界観を描いた作品。
劈頭の「タクシードライバー」と、続く「多数決」は疾走感を基調とした楽曲だけど、人生の暗部や不安や苦闘、社会の「多数派」への違和感を提示して、シニシズムのにおうマイノリティ・アンセム。いずれもライヴでの充実が既に完成されていて、あの空間への親和性の高さってのは、どんだけマイノリティ集ってんだよとw
計算された流れの美しさが感じられる構成、「吐きそうだ」「しらふ」と続くアル中展開は、ちょっとサカナクションじみた多重コーラスで《酔いどれの千夜一夜》を歌い上げる前者と、アルバイト・ルサンチマンシリーズの極北として屹立する、「冷凍睡眠」と並び立つポエトリィ楽曲の最高峰である後者いずれも見所たっぷりだし、「スピードと摩擦」のエロスの後に描かれるのは「エンディングテーマ」「花は誰かの死体に咲く」のタナトスと無常観。アルバム全体としての完成度はキャリア随一…ソングライティング的にメロディの引き出しの少なさを感じさせるところがあるけど、そこはアレンジと歌唱でドラマティックに演出する方法論が確立されている感じで、特に「吐きそうだ」はさすがの仕事。
そしてそうしたシニカルな世界観の中だからこそ、一点、無闇でひたすらな祈りの真摯さで歌われる《人生は美しい》の一言が、圧倒的な浄化能で胸を叩く。「ライフイズビューティフル」という楽曲は、はじめの一音から、描かれる人や場面、言葉とメロディのすべてで、アルバム全体に描かれた世界の暗部も悲しみも引き連れて、それでも生きなければならない人々を救おうとしている。「ナモナキヒト」でも「パーフェクトライフ」でも「雨男」でも歌われたメッセージだし、また《俺らの夜明けはもうすぐそこだ》は「雨男」の《未来は僕らの手の中》とカブってさらに若干精度落ちてるけど、そうした愚直さや洗練の乏しさもまた、楽曲のリアリティに結実しているようにすら感じられる、唯一無二の説得力と喚起力。

信じた人や物が過ぎ去る街で ありふれたどこにでもある悔し涙
そんなもんに未だに突き動かされる 人生は美しい
(「ライフイズビューティフル」)

こんなシンプルな人生賛歌を成立させられる、表現者としての必然性と確信。それを感涙と共に味わえる名曲がまたひとつ。

世界収束二一一六(初回生産限定盤A)(DVD付)

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