古野まほろ『命に三つの鐘が鳴る 埼玉中央署新任警部補・二条実房』光文社文庫

ネタバレ注意。
天帝シリーズの世界観の下、新任キャリア警察官としての二条「警部補」の活躍を描く長編。極左セクト内ゲバ殺人に、二条の個人的な恋愛と友情が骨絡みに絡む事件。
親子関係はともかく*1、兄妹関係は非常に見えすいた仕掛けで、プロットだけならメロメロのメロドラマ、しかも左翼ネタって大時代的に古臭くもあるんだけど、この架空帝国史観と、抑制気味ではあっても確かに迸る独特のテンション、そしてロジックへの偏執が、この作品をもまた完全オリジナルなまほろワールドの、異形の構築物として彫刻している。
全共闘運動…「あの時代」と、「セクトによって引き裂かれる恋人たち」を主要なモチーフにしてる本格って、俺が恥ずかしながら創作としてやりたいと思ってるコト既にやられてんじゃねーかって危惧があって、文庫落ちしてすぐに読んだんだけど、元キャリア警察官としての経験を生かした警察小説としての構成に創造性が向いてる感じがして、おこがましいこと限りない自覚の上で言うけど、なんかちょっと安心した。
しかし作品の中に、より広い歴史的な流れの左翼運動史が底流してたりとか、かなりツボついてくるし、個人的な嗜好や興味対象としてはそのものズバリの作品だったわけで、もっと無邪気に愉しみたかったようには思ったな…なんかもうドキドキしちゃってさ。
評価はB。

*1:にしても病気伏線はあからさま。