ネタバレ特になし。
不動産会社の広告キャンペーンに寄せられた短歌を、コンテストの選者である著者が「短歌入門」的な解説コメント付けて編纂した本。
素人さんなりに達者なものが多くて楽しく読みました。媒体が媒体だけに都会のアパート暮らしの断面を切り取った歌が多くて、そこに「あるある」的妙味が巧く織り込まれていたりするとポイント高い。
強くなれ! 丸めた雑誌を握り締める 誰も助けてくれないんだから
(148p)
おかげさまで部屋に来られてゴキブリに感謝しながら噴射している
(150p)
あたりは「ゴキブリ」というあるあるだけど、共にちょっと考えないと妙味が味わえないあたりに稚気を感じて。
ワンルーム泣きたいときに泣けなくて 今日のメニューはハンバーグです
(56p)
ずぼらねえ あれから独り住む部屋で あなたに届く郵便の束
(100p)
あたりも「考えセンチ」感があって好きだった。「タマネギ」「転送届」に思い当たるとなんとなく嬉しい。
とは言え、
風呂上り面倒くさくて裸んぼう ふと鏡見てお腹もみもみ
(184p)
なんてナンセンスバカなのもかわいげがあっていいよね。
でもベストを挙げるなら、「くらし」の幸福を三十一文字に綺麗に落とし込んだ歌で、
赤ん坊育ち猫来ていなくなり もとのふたりで今もしあわせ
(178p)
も捨てがたいけど、
いびきまで愛しく思う今のうち 広めの部屋を探しに行こう
(18p)
だなあ。ほっこり感と、その対極にあるシビアな認識と、でもやっぱりそれらを包含してある愛情のあたたかさが感じられる秀作だと思う。実際コンテストでも準大賞とのこと。
著者解説は過不足なく、作品と短歌の魅力を伝えるものになっていると思うけど、
1Kよ小さな声でも聞こえるの 歯が生えたとか妻と話すな
(90p)
って歌の解釈が俺と違った。枡野さんは隣家の会話に嫉妬してるって解釈だけど、俺はコレ、不倫の恋人を家に招いて、自分は料理かなんかしてる間に相手の男がこっそり自分ちにアリバイの電話してんのを聞きとがめてるって話だと思うけどなー。穿ち過ぎで性格悪いんかなー。
評価はB。
- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
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