森博嗣『数奇にして模型 NUMERICAL MODELS』講談社文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会「森博嗣完全読破」企画、第十回課題本。
もうこの段階ではドラマほとんど観てなかったけど、大御坊の造形酷かったよね…というS&Mシリーズの九作目。
特にプロローグから、なかなかにニヤリとさせられるミスリードの効いた佳品で、それ故に本格ミステリとしての予定調和を拒否する678pあたりの皮肉も効果的。個人的には学生〜社会人初期にかけて長く住んでたエリアがメインの舞台なのも楽しかったし、不覚にも存在を忘れていた曾我医師という愛すべきキャラクタとの再会も僥倖であって。
しかしなによりこの作品のキモは、ラストシーンの忘れがたさ。
初読から十年以上経っても鮮明に憶えてた美しいシーン、再読にあってもやはり素敵でした。単純に情景とその描出という意味でも、ストーリィ中解決されなかった謎の、ラストでの夢幻的な処理という意味でも。
森作品のラストシーンてのは琴線に触れてくるものが多くて、この作品や『F』『今はもうない』のような、センテンスごと記憶されてる詩的な余韻、あるいは『封印再度』『夏のレプリカ』のようなキャラクタ小説としての愛らしさ、特に前者の文章表現だけでもたらされるカタルシスについては、もっと語られて、評価されていいものだと思います。
評価はB+(再読)。

数奇にして模型 (講談社文庫)

数奇にして模型 (講談社文庫)