森博嗣『今はもうない SWITCHBACK』講談社文庫

ネタバレ注意。
家庭内読書会「森博嗣完全読破」企画、第九回課題本。
忌まわしき記憶の『今はもうない』。ミステリとしては珍しい謎めいたタイトルと、講談社ノベルスとしては珍しい上品な装丁とに惹かれて手に取った、これが「初めての」森ミステリィ。当時中学生にして、さすがに読了後「やっちまった!」と思ったけど、それがいかな愚行が、読んだ人なら「うわぁ…」と嘆息してくれるでしょう。
気を取り直して再読してみれば、こんなに楽しい作品もそうはないんですけどね。これまでこの企画で再読してきたS&Mシリーズのレヴューで、この作品に向けた伏線にたびたび言及してるのも、再読にしてこの作品の真価を味わい尽さんとする積極的姿勢…というかぶっちゃけ負け惜しみの故で。
でも《萌絵という彼女に相応しい愛らしい名前を聞いたのは後日のことであったし》(43p)てのはマジにギリギリ…つか半分以上はアンフェアだと思うわ。メインの叙述トリックと美しいラストシーンはもちろん憶えていながら、引用したとこみたいな細部はおろか本筋の事件も忘れてたんだけど、そっちの方もなかなかに綺麗なホワイダニットだし、犯人像にも余韻が響いて味わい深い。でもさすがに裏表紙に言う《S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い》てのはないかな(再度の負け惜しみ)。
基本的には愉快な佳作。再来週愛知県知事選挙だけど、「佐々木さん」つって入れてこようかな。
評価はB(再読)。

今はもうない (講談社文庫)

今はもうない (講談社文庫)