藤原伊織『てのひらの闇』文春文庫

ネタバレ注意。
飲料会社をリストラ間際の主人公が、かつて恩を受けた会長の自殺と、遺されたある映像をめぐる謎を解く企業ハードボイルド。
筋立ては企業小説だけど、世界観は紛れもなくロマンティック・ハードボイルドです。主人公にも、周辺の男性登場人物にも、非常に分かりやすいダンディズム/ロマンティシズムが投影されています。こういうの、鼻白む向きもあるだろうけど、個人的にはハードボイルド的世界のカリカチュアとして、愉しく読みました。「うわ大原、お前ベタやなー」(ニヤニヤ)とかって。
文章力もリーダビリティもしっかりしていて、エンタテインメントとして文句ない、よく出来た小説です。ただ一点、「糸クズ」という小道具の必然性・効果には大きく疑問の残るところでした。タイトルのイメージも収斂させるには、あまりに弱々しい存在感。
評価はB−。

てのひらの闇 (文春文庫)

てのひらの闇 (文春文庫)